「ところが念のために防風林がある西側を見ると、忌避剤入りの湯飲み茶わんが2つひっくり返されていました。」

「4日目の朝のことですよね」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

「他に荒らされたところはなかったのですか」と町会長。

「西側の茶碗がひっくり返されているときは、30センチぐらいの長さで、あちこち掘られているのですが、それがなかったのです。」

「それは不思議ですね」と町会長。

「念のため、注意深く庭を見ると、茶室の裏の庭と中庭の間の竹柵の内側がちょこっと掘られていました。以前掘られたことがある所で、よく見ると掘られたかなというくらいの掘り方だったので、本当に掘られたのかどうか確信はありませんでした。」

「もしかして、うり坊がやったということですか」と町会長。

「僕もうり坊の仕業かと思ったのですが、そこを掘ったとすると、茶室と蔵の間の1本の竹が突破され、中庭と茶室の裏の庭とを区切る竹柵のところにおいてある2つの超音波害獣撃退器も突破されたことになります。しかし、そこに超音波害獣撃退器を置いて以来、竹柵の間の通路を突破されたことはなかったのです。」

「30センチぐらいの堀跡がないということは、うり坊が単独で来たということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。そして、うり坊と一緒に来たのは、母イノシシしか考えられませんから、以前掘られた30センチくらいの痕は、母イノシシが付けたものだということになります。」

「なるほど。そうだとすると、東側に1メートルほど、くっきりと後をつけたのは父猪ということになるのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。それで、うり坊が来た痕跡はないかと、中庭をもう一度注意深く調査しなおすと、スナゴケがちょこっとはがされていました。」

「スナゴケだとうり坊でも剥がせるのですか」と町会長。

「猫でもグチャグチャにできるので、うり坊がミミズを取るために、ちょこっとはがすのは簡単だと思います。」

「なるほど。スナゴケがちょこっとはがされていたので、東側は父猪がハイゴケを荒しに来ていたことと、西側は母猪がうり坊と一緒に来ていたことが結論できたということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

「うり坊は、母猪と一緒に来たときには、超音波害獣撃退器のある竹柵の間の通路を突破できなかったのに、母猪がいないと突破できるのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。うり坊は頭蓋骨が柔らかいので、鬱の症状が軽いからです。」

「母猪と一緒のときは、竹柵の間の通路を突破できない母猪の言いつけに従わなければならないということですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

2020/1/18

<イノシシ後記3>
10月の中頃、夜の9時過ぎに練習を終えて卓球場から出ようとした時、卓球場の西側で害獣撃退器がけたたましい音を立てたので、行って見ると30センチくらいの立派な牙があるイノシシが懐中電灯の光の中に浮かびあがったことについては、『イノシシ後記1』に書いた。

1番下のうり坊をを残して、母イノシシとどこかに行ってしまった同い年の雄イノシシである。そのイノシシが30センチくらいの立派な牙があるイノシシになって戻ってきたので、心に感じるものはあった。

しかし、30センチもある牙でブスと刺されたら痛いだろうし、太ももの動脈でも切られたら大出血になって命にかかわる。庭に入られたら、苔庭はむちゃくちゃになる。

次の土日に、息子に手伝ってもらって孟宗竹を切り出し、卓球場の西側に設置してある孟宗竹を7本にした。陰のパワーを強くするため孟宗竹を針金で繋いで一体になるようにした。これで完璧だと思った。幼児期に餌場だったところに入れないのは気の毒だが、他にいい方法は思いつかなかった。

イノシシは4匹一緒に卓球場の裏にやってきて、土を掘り返すようになった。何年か先にイノシシが増えた時、卓球場の裏がイノシシのたまり場になると困るので、LEDライトを4つ設置して追い払うことにした。夕方暗くなりかけた頃、LEDライトを設置するための杭を作っていると、栗林の北のはずれあたりで、イノシシが何匹かいる気配がした。暗くて見えないので懐中電灯を持って近づくと、ゼーゼーという激しい息遣いが聞えた。『イノシシであれば、ドスの利いた低い声で吠えるのだが。もしかしたら野犬の集団なのか』と思った。『野犬に噛まれて狂犬病になったらやばいな。杭を作るために用意した鉈は持っているが、ピノキオ化しているので互角に戦うのは難しいかもと』と思いながらゼーゼーという激しい息遣いに向かって進むと、野犬らしき動物は山の方に少し退いた。僕も暗闇の中を山の中まで追いかけるつもりはないので、家に向かって戻り始めると、ゼーゼーという激しい息遣いが再び近づいてきた。『イノシシならこんなにしつこくはないはず。やはり野犬か?』と思いながら山に向かて引き返すと、ゼーゼーという激しい息遣いも山に向かって退いた。<続く>

2022/12/7